(理事長 池田 和博:丸善出版)

 

 2024年を迎え、お慶びを申し上げます。会員各社・出版関係各位をはじめ日頃お世話になっている皆さまにおかれましては、新たな気持ちで新年を迎えられたことと存じます。新理事長となった私にとってはあっという間で、気づいたらもう新年、本事業年度も折り返し、というのが実感です。引き続き皆さまの力添えをいただきながら協会運営を進めてまいりますので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 昨年はCOVID-19が5類に移行し、社会生活はかなりコロナ前の状態に戻ってまいりました。街には外国人観光客が戻り、中止や自制されていたいろいろなイベントも開催されるようになりました。一方で、国内外問わず社会・経済は不安定といえ、エスカレートすることとなってしまったイスラエルとパレスチナの軍事局面、長引くロシア・ウクライナ情勢、原油高・資材高に円安と、新聞やニュースを見てもあまり明るい話題がないのが実情です。
 出版界も相変わらず厳しい環境の中での越年ですが、ことに当協会のような専門書に携わる出版社には、春・秋の教科書の売上低迷は厳しさを象徴する事象でした。コロナ禍では教科書需要が増えたのは間違いないでしょうが、昨年は残念ながらコロナ前より悪いといっても過言ではないのが各社の実態だったのではないかと思います。対面授業に戻って、教える側が教科書を指定・利用しなくなったのか、先輩から譲り受けるようになったのか、ネットを中心に中古市場に学生の目が向いたのか、学生自身が教科書は必要ないと判断したのか、要因はいろいろと考えられますが、それらが複合的に作用しての結果だったのかと思います。今春がどうなるか気になるところではありますが、正直楽観できる状況ではないと思います。
 別の視点でとらえると、教科書という出版物に求められる形も変わりつつあるのかもしれません。
 大学の講義はかつて板書メインであったものが、資料投影されることが多くなり、いつと比較するかによって具体例は変わってきますが、教え方が変化していること自体は間違いありません。現に改正著作権法第35条をめぐる授業利用の補償金に関して大学の専門書申請が多いと聞きますが、これは電子的に複製利用されている実態を示しており、教える側の板書と多少の配布資料というかつての状況が変化していることを表わしています。
 講義を受ける学生の側も、もしかしたらノートにせっせと書き写すということが変化しているかもしれません。ことの良し悪しは別にして、ノートに書き写さなくても、もはや板書でも投影でもスマホで撮影はできますし、投影の場合は後に先生がデータを何らかの形で開示することもあるでしょう。具体的に調べたわけではありませんが、学生の講義の受け方も変化しているかもしれません。また、「調べる」という行為も、まずは手早くネットで検索するのが当たり前といえます。
 このように考えると、教育の実場面も電子化され、今後も進んでいくと言えないでしょうか。自然科学系出版物の電子化は進んでいますが、電子か紙かという次元を超えて、この先はさらに広範な利用の仕方にも対応できるような形態が求められてくるのかもしれません。一朝一夕にいくものではありませんが、需要動向はもちろん、「使われ方」にも注目して様々な要望に応えていくことが必要になりそうです。正解が目の前にあるものではありませんが、厳しい売上を前に眉間にしわを寄せつつも、一歩先を見ようとすることが大切だと、私は自分に言い聞かせるようにしています。
 先が見通せない状況が続くものと思いますが、会員社どうしの協力や協調が求められる場面があろうかと思います。自然科学書協会は、販売・出展委員会、著作・出版権委員会、研修委員会、広報委員会、総務委員会を中心に活動していますが、その活動などを通して情報の共有・発信をし、皆さまのお役に立てるよう務めてまいります。どうぞ本年も関係各位のご指導とご協力をお願い申し上げます。